【脆弱性(Vulnerability)の力】なぜ「弱い部分」を見せることが、長期的な信頼と共感を生むのか?
近年、パーソナルブランディングやオンライン企業の世界で頻繁に耳にするようになった単語に「バルナビリティ(Vulnerability)」があります。この言葉は日本語では「脆弱性」と翻訳されますが、その本質は自分自身の弱い部分や、人には見せたくないダメな部分を包み隠さずオープンにしていくという姿勢を指します。
この「脆弱性」という要素が、なぜオーセンティック(ありのままの自分)な情報発信において重要視されているのか、その理由と、長期的な人間関係やビジネスへの影響について解説します。
バルナビリティが共感と親近感を生む理由
「バルナビリティ」を実践し、自分の欠点や弱さを開示することは、受け手に対して共感を呼び、親近感を感じてもらう効果があります。
私たちは常にオーセンティックであること、つまりありのままの自分を出すことを意識すべきですが、完璧な人間は存在しません。常に良いところばかりを見せようとするのには無理があり、本当にありのままの自分を見せるためには、自然と弱い部分も表に出さなければなりません。
しかし特にインターネットの世界、特にSNSなどでは、良い部分が切り取られて発信される傾向が強いため、自分の弱点やダメな部分を見せることに抵抗を感じる人も多いのが現状です。発信者自身が、精神的に落ち込んでいる心境や日々の生活の困難を正直に発信するケースもありますが、これは必ずしも「脆弱性」を意識したマーケティングではなく、むしろ弱い人間として内面を吐き出さないと自分が保てないという切実な理由に基づく場合もあるのです。
一時的な関係か、長期的な信頼か
自分のダメな部分や弱い部分を見せたとき、離れていく人がいる一方で、離れずに付いてきてくれる人、さらには応援してくれる人も存在します。
この関係性は、結婚におけるパートナーシップに似ていると筆者は指摘します。結婚前は相手の良いところばかりが見えますが、一緒に暮らすうちに悪いところも目につくようになります。ビジネスや情報発信においても同様に、良いところばかりを切り取って見せていると、いざ関係性を持った時に悪い部分が露呈し、相手が離れてしまう可能性があります。
ここで重要なのは、「ありのままの自分」を愛し、応援してくれる人を大切にすることです。
- 切り取られた自分を好きだった人: ダメな部分を見せた途端に離れていく人は、あなたの人間性そのものに惹かれたのではなく、あなたが発信していた「切り取られた一部分」の自分を好きだったに過ぎません。
- ありのままの自分を好きだった人: 良いところも悪いところも全て含めて認めてくれる人は、長期的に見て幸せな関係を築くことができるパートナー(ビジネスにおいても)となります。
例えば、お金持ちが財産を失った瞬間に人が離れていく現象は、その人自身が好きだったのではなく、「お金」が好きだった証拠であり、信頼があったわけではないのです。脆弱性を開示することで、表面的な関係は遅かれ早かれ終焉を迎え、真に繋がれる人だけが残るということになります。
困難に立ち向かうプロセスを見せる「ドキュメンタリー的マーケティング」
情報発信者は、規模に関わらず、すべて「リーダー」としての役割を担っています。リーダーは導く存在(リードする)であるため、しっかりしているべき、かっこよくあるべきという固定観念がありますが、かっこ悪いリーダーがいても良いのです。
ネット上の発信者の多くが、完璧でスマートで欠点のないイメージ(パーフェクトな一面)を見せる中、あえて「どん臭いヒーロー」のような、愛すべき欠点を持つ姿を見せることは、視聴者にとってかえって親近感が湧き、共感を呼びます。
さらに、困難な状況(離婚や精神的な苦境など)に直面し、そこから這い上がろうと努力する過程を発信することは、ドキュメンタリー的な情報発信となります。
完璧な姿ばかりを見せる発信者ではなく、今まさに壁にぶち当たって苦しんでいる姿を見せながら、「それにどう向き合うのか」「どう乗り越えていくのか」という過程を示すこと は、視聴者に「自分も頑張ろう」という奮起のきっかけを与える力があるのです。
このプロセスを公開することは、同じように苦しんでいる人々の「心の支え」や「寄り所」となる可能性を秘めています。
ありのままの自分を出すことで得られる真の信頼関係こそが、長期的なブランディングとビジネスの基盤となるでしょう。
